不貞相手に合意書を書かせる際の注意点を解説。

不倫事例解説

川西能勢法律事務所HP

インスタグラムではイラスト付きで事例を解説しています。

不貞慰謝料と合意書

1 不貞相手との間で合意書を作成する意味

 ⑴ 不貞行為を立証する証拠となる

 不貞相手との間で合意書を作成したことは、不貞相手が後で不貞行為はなかったと主張を翻した場合に、不貞行為があったことを立証する重要な証拠となります。客観的証拠に乏しい場合には、相手が不貞行為を認めているうちに合意書を取っておけば安心できるでしょう。

 ⑵ 相場より高い金額で合意することもできる  

 また、不貞相手との間で合意書を作成することで、不貞慰謝料の金額を当事者間で決めることができます。不貞慰謝料の相場は100万円から200万円程度ですから、相場より高い金額で合意できれば、不貞相手との間で合意書を作成した意味は大いにあるでしょう。

2 合意書作成にあたっての落とし穴

 合意書の作成にあたって、形式面などに特に決まりがあるわけではありません。弁護士が合意書を作成して合意の締結をする場合も、A4の用紙に合意の内容をパソコンで打ち込んでそれを印刷しているだけです。弁護士も特別な何かをしているわけではなく、合意書は弁護士でなくても誰でも作成することができます。ただ、逆に形式などに決まりがないために、内容や書き方、合意書を作成する経緯によって、合意が無効となる場合が散見されます。

 合意書を作成するにあたって決まりがないとは、どのような内容、書き方でもいいというわけではないのです。

3 合意書を作成するにあたって注意する点

 ⑴ 趣旨が不明確

 合意書はお互いに何らかの事項について、合意したということを示すものですから、そもそも合意したとされる内容が不明確であれば、本当にお互いにその内容で合意をしたのか疑義が生じてしまいます。不貞行為の慰謝料として合意をするなら、きちんとその旨記載し、かつ金額を記載するなら具体的に、100万円なら100万円、200万円なら200万円と記載しなければなりません。

 ⑵ 合意した不貞慰謝料の金額が過大、内容が常軌を逸する

 お互いが納得して合意したなら、原則はお互いに決めたことを尊重しましょうというのが裁判所の考え方です。けれども、いきすぎると裁判所は待ったをかけます。つまり、合意は無効となってしまうのです。例えば、極端な例ですが、慰謝料の金額を1億円で合意したとしましょう。1億円という金額は不貞慰謝料の相場とは明らかにかけ離れており、裁判所は無効と判断する可能性が高いでしょう。こんな内容の合意書まで有効にしてしまうと、何でもありになってしまって、無理矢理合意書にサインさせるといったことが横行して社会の秩序が乱れそうですよね。どの程度の金額であればセーフでどこまでいけばアウトなのかはケースバイケースなので一概に決まっているわけではありません。合意に至る経緯、不貞行為の内容、合意をした者の属性などによっても判断は変わるところであります。ただ、私の感覚としては、500万円なら有効の可能性が高く、1000万円あたりまで行くと無効と判断される可能性も出てくるかなというところです。もし、不貞相手と合意できるなら、500万円程度で合意しておくのがいいように思います。金額が高ければ高いほど、相手としては後でこんなお金払えないといって弁護士に相談するなりして争ってくる可能性も高まるわけですから、高ければ高いほどいいというわけでもないように思います。

4 趣旨が不明で無効となった裁判例

 ⑴ 簡単に事例紹介

 原告である妻が、夫の不貞相手である女性(被告)に対して訴えを提起した事案です。

 原告は、被告が夫と不貞関係にあることを知り、被告に、「今後一切連絡を取りません。会いません。もし何かあった場合は、」と記載された書面にサインをさせました。

 その後も被告が夫と連絡を取っていることを知った原告は、原告の娘も同席の上、被告と再度会いました。その際に、原告の娘が合意書を作成して被告にサインさせたのですが、その合意書の内容は「①慰謝料5000万円、②被告が支払えない場合は被告の子ども全員がそれぞれ1500万円ずつ支払う、③被告が死亡した後は被告の子どもが支払う」といったものです。そして、「今後一切連絡を取りません。会いません。もし何かあった場合は、」と記載された以前に作成していた書面に、「200万円をお支払いします」と追記させ、日付もその日に訂正したのです。

 ⑵ 争点

 原告の娘が作成した合意書に基づいてされた500万円を支払うこととする合意は存在するのかど うか。

 ⑶ 裁判所の判断

 原告は、500万円は被告が約束を破って夫と会ったことに対するもの、200万円は一回目に会うまでの不貞慰謝料の金額であると主張しました。しかしながら、裁判所は、合意書の記載内容や経緯からすれば、200万円は被告が何らかの違法行為をした際に支払うことを約束したと解さざるを得ず、原告の主張と整合せず、合意した内容は確定できないため、原告と被告で500万円を支払うことの合意は認められないと判断しました。

 ⑷ 合意がないとなればどうなるのか

 合意がなかったとしても不貞行為があるなら不貞行為の慰謝料は発生することになります。今回の事例では、不貞慰謝料として120万円の支払いが認められました。

 ⑸ その他の問題点 

 今回は原告の主張と合意書の内容から読み取れる合意内容が整合しなかったため、500万円の支払いについて合意をしたとは認められませんでした。仮に、原告がこの点について合意内容と整合する主張をしたとしても、合意は無効と判断される可能性も十分にあったように思います。慰謝料の金額は500万円とそこまで過大というわけではないですが、関係のない子ども達に支払いを求める内容もあり、またその金額も高額であることから、それらの点も合意が無効と判断される考慮要素となるでしょう。そもそも、子どもたちのことを記載しても法的には無意味で、実際も意味のあることではないので、わざわざ無駄な記載をして合意が無効になるリスクだけ背負うのは、賢いやりかたとは言えませんね。

5 合意書作成のポイント

 合意書を作成するにあたっては、日付、金額、署名、何についての合意かといった基本的なことをきちんと押さえておきましょう。内容も常識的な範囲に抑え、その他無駄なことは記載しないようにしましょう。

Follow me!

コメント

PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました