夫、妻を自宅の鍵を変えて締め出すことは違法?

離婚Q&A

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インスタグラムでは事例をイラスト付きで解説しています。

1 自宅から締め出す?

 夫婦仲が悪くなり、離婚の話もしている状況では喧嘩も増えていきますよね。そのような中、頭に血が上り、「もう帰ってくるな!」と締め出したくなることもあるかもしれません。

 ただ、場合によっては、そのような行為は違法になり、協議離婚や離婚訴訟で不利になることもあるので、気を付けなければなりません。

 それではどこまですると違法になってしまうのか解説していきましょう。

2 違法になる場合は

 自宅からの締め出しが違法になるかならないかは、程度の問題であり、やりすぎたら違法になります。自宅の締め出しが違法になるかどうかは、鍵を変えたのか、どのような経緯でそうなったのか、相手は了承していたのか、同居していたのか別居だったのか、それとも半同居のような状態だったのか、といった事情を考慮して判断されることになります。それでは、参考に自宅の締め出しが違法になった裁判例を解説しましょう。

3 自宅の締め出しが違法になった裁判例(東京地方裁判所平成30年1月25日判決)

⑴ 事例説明

 夫が自宅マンションの鍵を変えて妻が自宅マンションに入れなくなったという事案です。

鍵を変えた経緯としては、

① 妻の不貞行為が発覚し、その後の協議でお互いに離婚することには同意。

② 夫から妻に対して、妻が証拠の捏造をしたり自分を締めだしたりすることを防止するために自宅マンションの鍵を変えて、二人揃わないと入室できないようにしようと提案。

③ 妻はそれに対して明確な異議を述べなかった。

⑵ 検討

 上記裁判例の事案は、例えば、喧嘩して、感情的になり無断で鍵を変えて、締め出したといった明らかに締め出した側に非があると分かるものではないです。一応話し合いはしており、鍵を変えることも事前に伝え、妻だけが自宅を締め出されるわけではなく、お互いに勝手には入れないようにしようというもので、一方的に締め出したわけではなさそうです。しかしながら、この夫の行為を裁判所は違法と判断したのです。以下、裁判所が違法と判断した理由を解説します。

⑶ 裁判所の判断

 裁判所は夫の行為を、突如生活の本拠に入室できない状況に陥らせたもので、妻の居住権を侵害する違法なものと判断しました。裁判所が、夫の行為を正当化できないと判断した理由は以下のとおりです。

① 自宅は夫と妻が婚姻後に共同で購入したものであり生活の本拠であった

② 夫の提案を直ちに拒絶しなかったからといって、居住権を放棄したと即断するのは相当ではない。

③ 妻は翌日に自宅に戻れないことに対して明確に不満を述べ、それ以降その態度は一貫している。

④ 妻を自宅に入れないようにすることは離婚協議を続けるための必要最小限の行動とはいえない。

⑤ 夫だけが鍵を所持して入室可能であり「二人揃わないと入室できない」とはなっていない。

4 裁判所の判断を踏まえて

 夫からすれば、妻が不貞行為をし、自宅に居られない状況を作ったもので、それでも話し合い、事前に鍵を変えることを伝えるなどはしており、自身の行為を正当化したいところなのでしょう。ただ、妻は自宅に戻れなくなると、今後の居住に困ってしまうわけで、裁判所は居住権を軽くは見ていないようですね。

 このような裁判所の判断からすると、例えば、喧嘩して、夫、妻が出かけている隙に鍵を変えて締め出してしまうような行為は、違法と判断される可能性が高いといえるでしょう。

5 慰謝料の額はどの程度なの?

 自宅からの締め出しが違法と判断されると、慰謝料が発生することになりますが、上記の裁判例では、慰謝料の額は30万円と判断されています。この額を高いと捉えるのか低いと捉えるのかは人それぞれでしょう。上記の裁判例の事案では妻が不貞行為をしていましたが、夫にも妻の居住権を侵害した不法行為が認められます。そうすると、仮に不貞行為の慰謝料が100万円だとしても、居住権侵害の不法行為を考慮すると、最終的には夫が貰える慰謝料の額は、100万円から30万円を控除した70万円となってしまいます。最終的には自分の利益が減少してしまうことになる可能性があるので、相手に不満があっても自ら不法行為に当たりかねない行為をすることは控えたほうがいいでしょう。

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