性格の不一致や価値観の違いでも慰謝料は認められる!?(令和2年1月15日判決東京地方裁判所)

離婚事例解説

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(ポイント)

婚姻関係破綻の原因を性格の不一致とする場合,どちらか一方に非があるわけではないとして,両者ともに慰謝料請求が認められないと判断される場合が多いです。今回の事例では,婚姻関係破綻の主な原因を性格の不一致とする場合において,一方当事者に慰謝料70万円の支払義務が認められました。

(事案の概要)

(1) 原告と被告は,高等学校の同級生であり,卒業後である平成〇年初め頃から交際を開始し,同年〇月〇日に婚姻をした。原告は,婚姻した当時,会社員として勤務していたが,遅くとも平成〇年〇月頃までに妊娠をしていることが判明し,同月に勤務先を退職した。原告は,妊娠高血圧を発症して入院することとなり,○月○日に長女を出産したが,長女が低体重児であったため,入院となり,原告も出産後に同年〇月〇日まで引き続きの入院となったため,被告が冷凍された母乳を搬送するなどした。もっとも,被告は,同年〇月〇日には外出して飲酒し,翌朝に帰宅したことがあった。

(2) 被告は,原告との婚姻後も,趣味のバレーボールを続け,週末に外出することが多く,また,一週間で5日は飲酒をするほか,同僚や友人と飲酒することも多かった。

(3) 原告は,平成〇年〇月,メンタルクリニックで診察を受け,デプロメールとグッドミン等の処方を受けた。

(4) 被告は,平成〇年〇月〇日頃,電車内で乗客とけんかになり,ホーム上で暴行を振るったため,警察に連行され,その後に略式命令により罰金を支払った。被告は,上記の事件後も,東日本大震災の日に飲酒をして翌日に帰宅するなど,飲酒を継続した。

(5) 原告は,平成〇年〇月〇日,神経科で診察を受けた。その際,原告は,眠気や過眠,頭痛,めまいなどを訴えるとともに,被告が理解してくれないことから,いらいらしている旨を述べて,主治医に睡眠障害を疑われ,デジレル錠とデパス錠の処方を受けた。

(6) 原告は,平成〇年〇月,飲酒をして帰宅し,暴れていた被告に対して注意をしたところ,保険証等の身分証明書を携帯することができないまま家を出ざるを得なくなり,Aの自宅で過ごしたが,その際,激怒した被告からAの留守番電話に暴言の録音が残された。その後,原告は,実家に身を寄せたが,同月〇日までには自宅に戻り,被告とはやり直して家事の分担もし,同年〇月〇日においても,被告とけんかをしていない状態が続いており,同年中に久しぶりの性行為にも及び,同年〇月〇日には神経科での診察を終えた。

(7) 被告は,平成〇年〇月〇日に女性と二人で食事に行き,同月〇日には飲酒の上で暴れ,玄関に小さな穴を開けた。また,被告は,同年〇月に原告の妊娠が判明した際,原告に対して誰の子であるのかとの発言をした。  

(8) 原告は,平成〇年○月○日,二女を出産した。原告は,二女の出産後に自営業である仕事が量的に制約されたことなどから,同年〇月〇日,被告に対して家事・育児の負担や家計についての苦情を申し入れ,同年〇月〇日には,被告が激高することについての苦情を申し入れた。

(9) 原告は,平成〇年に入っても被告が朝帰りや飲酒の上で暴れることなどを繰り返し,被告から「ライターとは思えない文章力,いやライターですらないか」,「ポッと出のうさんくさい」等と言われたことなどから,同年〇月頃には体調の不良を訴え,同月〇日に内野クリニック神経科で診察を受けた。原告は,その診察時に,被告が飲酒をすると酒乱になることや,周期的に感情を爆発させるため,被告の顔を見るのが耐えられず,息苦しくなること,被告が長女に厳しいことなどを訴えた。

原告は,その後も被告が飲酒を継続し,服装が痴女みたいであるなどと心ないことを言われたことや,家計や家事の分担を巡って双方の意見に隔たりが大きかったことが続いたこと,平成〇年〇月〇日には,子の体調が不良であったため,高校の同窓会に行かないように頼んだところ,被告が子の写真や絵画を捨てたりしたことなどがあり,被告との関係が不良な状況が続いたため,同年〇月〇日に被告に対して離婚を申し入れるとともに,同月〇日に,被告との別居を開始した。

(10) 原告と被告が協議をした結果,被告から家庭裁判所に離婚についての調停を申し立てることになったため,被告は,平成〇年〇月〇日,〇〇家庭裁判所に別件調停事件を申し立てた。

(11) 原告と被告は,平成〇年〇月〇日に子らの親権者を原告と定めて協議離婚をした。また,原告と被告は,平成〇年〇月〇日,別件調停事件において,離婚後の残された問題についての調停を成立させた。その成立した調停条項のうち,財産分与については,被告が原告に対して100万円を支払う旨の内容であり,慰謝料についての定めはなく,清算条項の定めもなかった。

なお,上記の財産分与は,その対象財産である金融資産100万円の半額50万円とマンション購入時に専ら原告が負担した100万円の半分を合わせた100万円を分与するというものであった。

また,別件調停事件の期日において,原告が一貫して被告に対して慰謝料の支払を求めていたにもかかわらず,被告は,これを拒否した。

(裁判所の判断)

・責任原因の有無

 原告と被告は,婚姻した直後から,良好ではない関係が少なからずあり,平成〇年〇月からは神経科で診察を受けるなどしているが,同診察時における原告の申告内容が,被告に関するもの以外のものも含まれていることや,その診察を継続している最中及びその後に夫婦関係が改善した時期もあった。もっとも,遅くとも平成〇年頃には,それまでに改善を求めていたにもかかわらず,被告が朝帰りや飲酒の上で暴れること,感情を爆発させること,原告を侮辱する内容の発言をすることといった生活態度を改めなかったため,原告は,これに耐えられず,同年〇月〇日に神経科で診察を受けた際には,専ら上記のような被告の生活態度により苦しめられている旨の申告をしており,その後も被告との不良な関係性が継続したほか,それまでの家事や家計の負担についての見解の相違が大きいことも相まって,婚姻関係が確定的に破綻に至り,被告との離婚に至ったものと認められる。そうすると,婚姻関係が破綻した主たる原因は,性格の不一致や価値観・生活様式の相違を基礎としつつも,上記で述べた生活態度を改めなかった被告にあるといえる。

 裁判所は,婚姻関係破綻の主たる原因は被告にあると判断しました。裁判所は,診断書などから事実を認定しています。診断書を作成してもらう際には,生活状況なども具体的に申告すること心掛けましょう。

・損害

 婚姻関係が破綻したのは,被告において飲酒の習慣等の生活態度を改めなかったことが主たる原因であるが,その遠因としては,性格の不一致・価値観・生活様式の相違などが基礎とされていることもしんしゃくすると,原告と被告の婚姻期間や年齢等の諸事情も併せ考慮すると,その慰謝料の額は,70万円が相当である。

 慰謝料の金額は70万円となりました。不貞行為があった場合などと比較すると,低額となっています。婚姻関係破綻の原因が性格の不一致などを基礎とする場合には,慰謝料の金額は高額とはならない場合が多いです。

(性格の不一致などで慰謝料を認めてもらうためには)

 婚姻関係破綻の主な原因を性格の不一致とする場合で,慰謝料請求を認めてもらうためには,証拠が必要になります。今回の事例においては,裁判所は,原告が作成した日記と思われる証拠からも事実関係を認定しています。そのような証拠がなければ,裁判で相手方の非を主張したとしても,慰謝料請求が認められることは難しいでしょう。

 裁判で提出するための日記作成の注意点については,別の記事で詳しく解説していますので興味のある方はこちらをクリックください。

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