別居後に夫名義の預金から生活費を引き出しても問題ないのか?!(令和2年3月26日判決東京地方裁判所)

離婚事例解説

川西能勢法律事務所HP

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(当事者)

原告=男性

被告=女性

長男=被告と同居

(事案の概要)

⑴ 原告,被告及び長男は,長男誕生後しばらくは同居していたが,被告及び長男が自宅を出ることにより別居が始まった。原告,被告及び長男は,平成15年頃,同居を再開した。

⑵ 原告は,平成17年1月1日,平成16年5月頃の痴漢行為で逮捕されたこと及び同年12月に窃盗容疑をかけられたことにより被告に多大な心労を与えたことを詫びるとして,今後被告を欺くことがあった場合,これまでの原告の財産及び収入をもって償うことを誓う旨の念書を差し入れた。

⑶ 被告は,被告及び長男の生活費を確保するため,平成20年12月から平成21年2月にかけて,被告が管理していた本件口座から本件引出を行った。

⑷ 原告は,平成21年1月以降,被告に対して生活費等を送金しなくなった。被告は,本件引出により取得した金銭を,被告及び長男の生活費の他,長男の教育費や医療費,被告自身の医療費等に充てた。

⑸ 原告は,平成20年12月分から平成28年7月分まで,被告及び長男が居住していた住居の家賃等の一部を負担した。

⑹ 原告と被告との間で,婚姻費用として原告が被告に対して平成28年7月以降,1か月当たり25万4000円の婚姻費用を支払う旨の調停が成立し,原告はこれを支払っていた。

⑺ 原告は,平成24年10月10日,被告を相手方として,東京家庭裁判所に離婚訴訟を提起したが,同裁判所は,平成25年8月9日,原告の請求を棄却し,同判決において,原告が不貞行為に及んだ旨の事実が認定された。

⑻ 原告は,平成29年2月20日,被告を相手方として,東京家庭裁判所に再度離婚訴訟を提起したが,同裁判所は,平成30年11月8日,原告の請求を棄却し,原告はこれを不服として東京高等裁判所に控訴したが,同裁判所は,平成31年4月18日,控訴を棄却した。

同居時には被告が家計の管理をしており,被告は原告名義の口座から金銭を引き出せる状況にありました。被告は別居してから短期間のうちに,合計5000万円もの金銭を引き出しました。そのおよそ10年後に原告が被告に対して,引き出された金銭の返還を求めたのが本事案です。原告は別居期間のほとんどにおいて被告に対して生活費等の支払いをしていなかったため,被告は,引き出した金銭については生活費等に充てたものであるため返還する必要はないと主張しました。

(争点)

 被告は,原告名義の口座から引き出した金銭について,生活費,子の習い事の費用,学費,裁判費用,調査費用などに使用したものであり,夫婦共有財産としての使用であると主張しました。被告のそれらの支出が夫婦共有財産の使用であれば不当利得にはなりません。したがって,本事案においては,被告が別居後に原告名義の口座から引き出した金銭の用途が夫婦共有財産の使用といえるかが争点になります。

(裁判所の判断)

1 裁判所の判断の枠組み

 裁判所は,夫婦共有財産について,婚姻から生じる費用は夫婦が分担するものとされている一方で,専ら一方の利益のみのために夫婦の共有財産を用いることまでが許容されるものではないとしています。

 その上で裁判所は以下のとおり判断の枠組みを示しました。

 被告は,自分名義ではない原告名義の預金口座を管理しているが,原告の明示又は黙示の委託の趣旨に従って共有財産を管理している。被告が,共有財産を家族の生活のために用いる場合には,夫婦又は親子としての扶養義務に著しく反するような態様でない限り,上記委託の趣旨に反するものとはいえない。委託の趣旨に反するような使用に関しては,不当利得返還請求の対象となり得ると解するべきである。

 つまり,共有財産を家族の生活のために用いる場合は,よほどのことでない限り返還を求められることはないということですね。

2 裁判所の判断

 生活費月額25万円,習い事費用月額10万円,障害対応費用月額10万円,転居費用10万円などの費用については不当に高額ではないとしています。

 また,裁判費用,調査費用については,被告が裁判に応じる必要が生じた理由は,原告が被告に離婚を求めたことにあり,原告の不貞が婚姻関係破綻の原因になっていることなどから,直ちに上記委託の趣旨に反するとまではいえないとしています。

 以上のとおり,裁判所は,不当利得を認めず,原告の請求を棄却しました。

(対応についてのアドバイス)

 別居後に相手方名義の口座から引き出した金銭の使用が不当利得となるかどうかはケースバイケースです。本事案では,結果的に生活費などの支出が不当に高額ではないと判断されましたが,仮に別居後数年で離婚が成立していれば,一部は返還する必要があったかもしれません。

 相手方名義の口座から預金を引き出そうとしても,口座から金銭が全額引き出しや,口座が凍結されていては手遅れです。別居をすると,相手方は,預金口座から金銭をすべて引き出し,給与振込口座の変更の手続きをするでしょう。その前に必要な金銭を引き出す場合には,できるだけ別居後すぐに対応しましょう。

 相手方名義の口座から金銭を引き出したことを相手方が知ると,相手方は「返還しろ」「窃盗だ」「警察に通報する」などと言ってくるかもしれません。それに対しては,「生活費として使用するために引き出したものであり返還する必要はない」と主張すればよいです。返還する必要があるかないかはその後の経過によるところですが,結果的に返還する必要があるということになれば,そのときに返還すればいいのです。また,この程度の家族間トラブルであれば警察が介入することはないので心配する必要はありません。

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