不倫慰謝料の相場は500万円だと信じさせてした合意は有効か!?(令和2年5月26日判決東京地方裁判所)

離婚事例解説

川西能勢法律事務所HP

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(事案の概要)

⑴ 原告は,当時の自宅において,被告の外出中に,被告が普段から持ち歩いている薬入れから避妊具を発見し,更に被告がAとLINEでメッセージのやりとりをしていることを発見して,被告がAと不貞関係にあるのではないかと疑うようになり,被告とAとの間におけるLINEのメッセージの内容を確認したことで,被告がAと不貞関係にあることを確信し,被告と離婚することを決意した。

⑵ 原告は,被告に対し,SMSメッセージで,用件を告げずに喫茶店で落ち合うことを要請した。原告は,同喫茶店を訪れた被告に対し,本件協議書の文案を提示して被告に読むことを求め,被告はこれを黙読した。原告は,上記文案を基に,被告と離婚条件につき協議し,子らの面会交流,養育費及び財産分与の順に話し合った後,被告に対し,「うーんと,そんで,ここはちょっと要相談なんですけど,慰謝料,一応,500万円を請求させていただきます。おっきいので,分割も可とします。回数,頻度については,あのー,ご相談ですけど,ま,大体100万円,あんまり長いと,長引くのも嫌かなと思って,一応,100万円,ボーナス用に,のときとかに5回。」と述べて,被告の返答を促した。被告は,これに対し,「うん。頑張ります。」と述べて,慰謝料を支払うことを承諾した。次いで,原告は,被告に対し,「支払時期とかは。あの,別に,ご指定のとおりでいいからね。はい。」と述べ,被告は,これに対し,「はい。」と述べた。被告は,本件協議書の右上の余白に署名をした。

⑶ 原告及び被告は,離婚条件に係る協議を終えるに当たり,本件協議書に,それぞれ署名をし,本件協議書を作成した。

⑷ 被告は,自らの実家において,その両親に対し,本件協議書の内容を話したところ,上記両親から,同協議書に基づく金員を全額支払うことができるのかとの質問を受け,支払うしかない旨の回答をした。

⑸ 原告及び被告は,本件協議書の内容に基づき公正証書を作成することを前提として,本件要約書面を作成し,各自がこれに署名及び押印をした。

⑹ 原告及び被告は当時の自宅において,原告がAに対し慰謝料請求をすることを巡って口論となり,原告は,Aに対する慰謝料請求をしないことを被告が繰り返し求めてきたことから,被告に対し,Aに請求する分の慰謝料を被告が負担すると約束した上,その旨を書面に残すのであれば,Aに対する慰謝料請求はしない旨を述べた。そして,原告及び被告は,Aに請求する分の慰謝料の金額につき協議し,被告が提案した100万円に原告が同意して,本件慰謝料書面を作成した。

⑺ 被告は,自らの実家において,その両親から,本件協議書に基づく金員を全額支払うことができるのかとの質問を改めて受けるとともに,弁護士に相談した方がいいのではないかとの助言を受けた

⑻ 被告は原告に対し,離婚条件の再協議を求めたが,原告はこれを拒否した。

⑼ 原告,被告に対し,自らの必要事項につき記載済みで,かつ署名及び押印を行った離婚届を交付した。被告は,自らの必要事項につき記載し,かつ署名及び押印を行った上記離婚届を,同月上旬頃,被告訴訟代理人に交付し,被告訴訟代理人がこれを原告に送付した。

⑽ 被告は,被告訴訟代理人を通じて,原告に対し,本件要約書面公証役場において公正証書とすることは控えたいと考えている旨の書面を送付した。

⑾ 原告は,離婚届を届け出ようとしたが,被告は,このとき,被告訴訟代理人の助言を受けて,本件協議書が離婚により有効となることを防ごうと考え,離婚届不受理申出をしていたことから,原告による離婚届の届出は,受理されなかった。

(協議書の有効性に対する裁判所の判断)

原告が協議書を示しながら慰謝料500万円を請求した行為は違法とはならず,合意は有効となりました。裁判所の判断の理由は以下のとおりです。

(裁判所の判断の理由)

原告は,被告と離婚条件につき順次協議した際,慰謝料に関し,総額500万円を年100万円ずつ5回に分けて支払うことを提案し,被告は,原告から初めて離婚条件を示されたものの,原告と早期に離婚したいと考えたことから,当該提案に応じて,他の離婚条件と併せて本件協議書を作成し,その後,原告及び被告は,本件協議書に基づく合意内容を確認した本件要約書面も作成したが,被告は,その両親から本件協議書に基づく金員を全額支払うことができるのかと尋ねられたことや,本件慰謝料書面を作成したことで債務額が増加したことを受けて,自らが負った各種債務の弁済につき不安を感じるようになり,原告に離婚条件の再協議を求めたが,これを拒否されたことから,被告訴訟代理人を通じて,原告に対し,本件要約書面を公正証書とすることを拒否する旨の通知をし,更に自ら離婚届不受理申出も行って,本件協議書に基づく債務を免れようとしたものと認められる。

このような事情の下で,原告が,被告に対し,離婚条件に係る協議の際,「金額については過去の類似事例にて裁判で認められた額を参考に算出しました。」などと記載された本件協議書の内容を示しつつ,総額500万円の不貞慰謝料を請求した行為が,故意に事実を仮構し,支払義務の前提ないし基礎となる事情につき被告を錯誤に陥らせ,これにより意思を決定ないし表示させた社会通念上違法なものであったということはできない。

(雑感及び弁護士の助言)

原告は被告に対して「金額については過去の類似事例にて裁判で認められた額を参考に算出しました。」などと記載された本件協議書を示しながら,慰謝料500万円を請求し,被告は同協議書に署名しました。被告の主張によれば,協議書には,その他「弁護士の先生にも確認いただき」,「日弁連が発表した」,「客観的にも妥当」,「妥当な金額」,「金額については過去の類似の事例にて裁判で認められた額」,「過去の判例を参考に十分悪質であると判断される条件を鑑み」などとも記載されていたようです。

 ただ,原告が協議書を示しながら慰謝料500万円を請求した行為は違法とはならず,合意は有効となりました。

 不貞慰謝料の相場は100万円から200万円あたりになります。協議書に「過去の類似の事例にて裁判で認められた額」と記載されており,ほんとにそのような裁判例があるのか疑わしいところですが,そもそも慰謝料の金額は事案によってケースバイケースであるので,そのような記載をしていたからといっても違法とまでは判断されませんでした。

 被告の主張によれば「日弁連が発表した」とも記載していたようです。これについてはウソかもしれませんが,「日弁連が発表した」ことが嘘か否かによって被告の意思決定に重要な影響を与えたとまではいえないため,その点はあまり重視されなかったのかもしれません。

 内容によっては,合意が無効となる場合も考えられるので,協議書には余計なことは書くべきではないです。説得するなら口頭で説得すればいいでしょう。

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