調停で決められた面会交流の合意について誠実に対応しなければ慰謝料支払い責任が発生する!?(平成28年11月29日判決熊本地方裁判所)

離婚事例解説

川西能勢法律事務所HP

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(当事者)

原告  =被告Y1の元夫でAの実の父親。Aとの面会交流を実施することができず,本訴を提起した。

被告Y1=原告の元妻でAの実の母親。原告と離婚をした後にY2と再婚し,AをY2の養子とした。

被告Y2=被告Y1が原告と離婚した後に被告Y1と結婚。Aの養親となる。

(事案の概要)

(1) 原告と被告Y1は,平成●年●月●日に婚姻し,長男Aを儲けたが,平成●年●月●日に調停離婚した。

 被告Y2は,平成●年●月●日,被告Y1と婚姻し,Aと養子縁組をした。

(2) 被告Y1は,離婚調停において,原告に対し,原告がAと月2回程度の面会交流をすることを認め,その具体的な日時,場所,方法等については,子の福祉を慎重に考慮して当事者間で事前に協議して定めることとされた。

(3) 原告は,第1回調停以降,平成●年●月●日まで,定期的にAと面会交流をしていた。

(4) 被告Y2は,平成●年●月ころ,原告に対し,被告Y1と連絡を取らないでほしい旨及びAと会わせない旨を連絡した。

(5) 原告は,●●家庭裁判所に対し,被告Y1に対する履行勧告を申し立てたが,不奏功に終わったため,平成●年●月,●●裁判所に対し,面会交流調停を申し立てた。

 原告と被告Y1は,平成●年●月●日,原告とAの面会交流について,合意し,同合意においては,被告Y2が原告に対して面会交流の候補日をメールで連絡することとされた。

(6) 原告は,被告Y2から面会交流の候補日につき連絡がなかったため,平成●年●月●日,●●家庭裁判所に対し,被告Y1に対する履行勧告を申し立て,その後,●年●月●日まで,原告と被告Y2との間でメールのやりとりがされたが,面会交流は実現しなかった。

(7) 原告は,平成●年●月●日から平成●年●月●日まで,7回にわたり,●●家庭裁判所に対し,被告Y1に対する履行勧告を申し立てたほか,上記の間,被告Y2に対して電話やメールで連絡したが,被告らは,原告に対し,面会交流の日程調整につき連絡しなかった。

(8) 原告は,平成●年●月●日,被告らに対して本件訴訟を提起し,●年●月●日,Aとの面会交流が再開された。

(ポイント)

 本事例では,面会交流調停で定められた内容を誠実に実施しなかったとして,母親であり親権者でもあるY1及びY1の再婚者でありAの養父でもあるY2に対して,損害賠償責任が認められました。

 面会交流について調停で合意されていたことが前提となっており、例えば別居してまだ面会交流について何ら取り決めがされていない場合についてはこの裁判例の射程外といえるでしょう。

 面会交流調停での合意の当事者は原告と被告Y1であり,Y2は当事者ではなく,本来であれば,原告とAの面会交流に関して何らかの義務など負わないはずです。しかしながら,本事例の面会交流調停では,Y2が原告と連絡を取り合うと具体的に定められたことから,Y2に面会交流のための連絡義務が認められました。

 結果として,裁判所は,Y1,Y2に共同不法行為責任が発生するとして,損害賠償責任を認めました。

(裁判所の判断)

・Y1の誠実義務違反

 被告Y1は,原告との間で,同人とAの面会交流について,第1回調停においてはおおよその回数を定めた上で,第2回調停においては年間の実施回数,おおよその時期,連絡方法並びに引渡しの時刻及び場所を具体的に定めた上でそれぞれ合意したことが認められるから,これらの調停に従って,面会交流を実施するために日時等の詳細について誠実に協議すべき義務を負うというべきである。

 被告Y1は,上記のような誠実協議義務を負いながら,平成●年●月●日の面会交流の後である同年●月ころ,原告に対し,被告Y2を通して面会交流をさせない旨伝えた上,平成26年1月の第2回調停以降も,原告から被告Y2を通して多数の候補日を提示されていたにもかかわらず,面会交流の実施日を確定させることなく,同年●月●日に被告Y2を通して原告にメールで連絡したのを最後に,原告からの連絡や多数回の履行勧告に応答しなかったものであり,本件訴訟が提起された後である平成●年●月●日に面会交流が再開されるまで,こうした態度を継続させたことが認められる。こうした被告Y1の行為は,面会交流を実施するための協議を実質的に拒否したものというべきであるから,誠実協議義務に違反し,原告の面会交流権を侵害する不法行為に当たる。

・正当な理由の判断

 被告らは,面会交流拒否の正当理由として,被告Y2とAの父子関係を確立する必要性や被告Y1の出産後の身体的・精神的負担があったことを主張する。

 しかし,被告らが主張する事情は,面会交流を実施するための協議自体を拒否することを何ら正当化するものではないにもかかわらず,被告Y1は,少なくとも上記事情のうち前者について原告に伝えることはなかったことが認められる。また,被告Y2とAが養子縁組をした平成●年●月●日以降も,面会交流が複数回実施されたことが認められるところ,これによって,面会交流を継続できない程度にAが不安を覚えたことをうかがわせる証拠は見当たらず,かえって,家庭裁判所調査官の調査面接において,Aが原告と会いたい気持ちを率直に述べたことが認められる。加えて,被告Y2自身,面会交流がAとの父子関係の構築に障害となるとは考えていなかった旨供述していることも考慮すると,被告らが主張する事情は,面会交流拒否の正当理由にはならないというべきである。

・Y2の連絡義務違反

 被告Y2は,第2回調停における調停当事者や利害関係人とはなっていないものの,調停期日に出席した上で,被告Y1の要望を受けて,原告との間で面会交流のための連絡を取り合うことを了承したのであって,その内容も,連絡すべき時期が特定されるなどかなり具体的なものである。これを受けて,被告Y2は,実際に平成●年●月●日から同年●月●日までは,原告との間で連絡を取り合っていたことが認められる。また,被告Y2は,被告Y1とともにAの親権及び監護権を行使すべき立場にあって,原告とAの面会交流について法律上の利害関係を有することを考慮すると,単に被告Y1と原告との間の連絡を事実上仲介するにすぎない者とみるのは相当でない。

 こうした第2回調停の内容,成立経緯,その後の被告Y2の対応及び同人の立場に照らせば,同人は,遅くとも原告と連絡を取り合っていた上記の時期までに,原告との合意に基づき,被告Y1の誠実協議義務とは別に,原告に対し,面会交流のための連絡義務を負っていたと解するのが相当である。

・損害について

 被告らの各義務違反の期間が相当長期にわたること,その間,原告は被告らに対して連絡を取ろうとしていたほか,家庭裁判所における調停や多数回の履行勧告を申し立てるなど多大な負担を負ったと認められること,特に,被告Y1は,2回にわたり調停手続において面会交流につき合意していながら誠実協議義務に違反しており,原告の妻が面会交流を嫌がるものと考えて同人に連絡したことなどを考慮すると,被告らの不法行為は,面会交流の実現を妨げる程度が大きい。これにより,原告は,約3年5か月間にわたり,Aと面会交流できなかったものである。この間,Aは7歳から10歳に大きく成長したと考えられ,そのような大切な時期に面会交流できなかった原告の精神的苦痛は,相当大きいものと認められる。

 他方,原告においては,養育費の支払を一時停止していたことがあるものの,被告Y1が面会交流を拒否したことに誘発されたもので,第2回調停後に遡って支払われたことからすると,原告の損害額を大きく減殺すべき事情とはいえない。

 そのほか,長期間面会交流が実施されなかったのは,被告Y1の意向が大きいと認められることなど本件に現れた一切の事情を考慮すると,被告らが賠償すべき慰謝料額は,被告Y1につき70万円,被告Y2につき30万円と認めるのが相当である。

(まとめ)

 面会交流調停で合意がされた内容については誠実に対応しなければ損害賠償責任を負う可能性が高いです。本事例はあくまで調停で合意がされたことが前提となっており,お互いの私的な合意の場合は本事例の射程外といえるでしょう。

 面会交流調停で面会交流について具体的に合意がされたときは,子どもを会わせたくないからといってもっともらしい理由を付けて面会交流を拒否すると,法的責任を負うおそれが高くなります。逆に,面会交流調停で面会交流について具体的に合意がされたにもかかわらず,相手方が誠実に対応しないため,面会交流が実施できない場合は,間接強制などの手続きだけでなく,損害賠償の民事訴訟も選択肢に入れてみましょう。本事例でも,民事訴訟が提起されてから面会交流が実施されているようです。

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