不貞慰謝料の請求の仕方に気を付けよう。場合によっては恐喝や脅迫になるかもしれません。(平成31年2月1日判決東京地方裁判所)

不倫事例解説

川西能勢法律事務所HP

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(当事者)

原告=被告の妻の不倫相手。被告から金銭を脅し取られる。

被告=原告と不倫をしていた女性の夫。原告に対して脅迫し金銭の支払いを迫る。

A =被告の妻であり,原告の不倫相手。

B =被告の友人であり,被告と原告との話し合いに同席した。

(事案の概要)

・原告とAは不倫をしていた。

・被告はAのLINEの履歴を見ることにより,原告とAの不倫を疑った。

・原告はAに対してランチを誘ったところ,被告がAに成りすまして原告に対してLINEを送信した。

・原告がレストランでAを待っていたところに,被告とBが出向く。

・被告は原告に対して,「徹底的にやって,会社にも言って,奥さんにも言って,お前の家族を徹底的にね,地位と名誉も徹底的にね,潰してやりますよって話をしてるわけじゃないんですよ」などと言い,1000万円を支払うことを内容とする書面に署名押印することを求め,原告はその書面に署名押印をした。

・原告と被告とBは,被告が運転する車でATMに向かった。原告は現金を引き出す,キャッシングをするなどして被告に支払うための金銭を用意し,被告に対して150万円を支払った。翌日にも原告は被告に対して,ネットバンキングで50万円を支払った。

・被告は,原告に対する恐喝罪で,懲役2年執行猶予4年の有罪判決を受けた。

(結論)

裁判所は被告に対して275万0540円の支払いを命じた。

内訳は,原告が被告に支払った200万円,原告が被った精神的慰謝料50万円,弁護士費用相当額の25万円,振込手数料540円です。

(裁判所の判断の理由)

・恐喝行為の有無

 被告は,原告に対して話し合う余地があるように表面的には述べながら,原告が証拠を見せるように言うと,暗に原告の会社や家族に原告の不貞行為を告げて家庭や,地位名誉を徹底的に潰すこともできる旨を述べたほか,原告が本件合意書に署名する前に弁護士に相談したいなどと言うと,署名をしないといつまでも帰らないと述べ,さらに原告が本件合意書への署名を拒否すると,原告の会社に電話をして原告の会社の者に来てもらう旨を述べたりしているのであって,原告としては,被告の言うとおりに本件合意書に署名をしない限り話が終わらず,これを拒否すれば,とりあえず会社に原告の不貞行為を告げる旨を暗に述べられたことから,やむを得ず,慰謝料として1000万円を支払うことを内容とする本件合意書に署名をしたものと解され,これと同趣旨の原告の供述は信用することができる。これに反する被告の主張は採用することができない。

・被告運転の車内における恐喝行為

 原告は,刑事事件において,要旨,平成28年11月7日,c銀行六本木支店やe自動契約コーナーで現金を引き出した後,b店に向かう車内において,被告から現金をどのように支払うのかについて再三問い詰められ,相当疲れていたので,被告に対し,「こういう事例は,僕だけの責任ではなくって,奥さんと二人でやった問題じゃないか。」というような話をしたところ,運転する被告が,後ろを振り返って怒り出して,車を蛇行運転させながら,「俺はお前なんかいなくなればいいんだと思っているんだ。」,「俺は手を出さないが俺の周りには何をするか分からないやつがいっぱいいるんだからな。」と怒鳴りつけるような感じで脅してきたため,身体的にも社会的にも危害を加えられるのではないかと畏怖し,b店において,150万円を交付するとともに,同月8日,50万円を送金した旨証言しており,同証言の信用性を検討する。

 a店において被告による恐喝行為があったことは明らかであり,一連の経緯として,原告の供述は自然かつ合理的なものである。また,原告主張の本件不法行為に係る発言部分については録音データが残っていないものの,被告が車内において原告に対し,繰り返し執拗に現金の支払を求めていたことについては,録音データが残っている上,その中には,原告が,これ以上現金を用意するのは無理なので,もう家族や会社に話をしてもらってもよいなどと述べるなど,相当追い詰められている様子が記録されているであって,原告の供述とも整合している。加えて,b店に入る前に,原告は,Bから「あんなふうに開き直ったらだめじゃないか。」,被告に謝りなさいなどと言われ,b店において,被告に謝ったなどと恐喝行為の前後のやりとりについても具体的な経過を述べていることに照らしても,その供述の信用性は高いというべきである。

・小括

a店及び被告運転の車内において,被告による一連の恐喝行為があったことが認められ,本件不法行為があったことは明らかである。

 なお,被告は,本件不法行為は社会通念上正当な権利行使であって正当行為として違法性が阻却される旨主張するが,被告が原告に要求した慰謝料額は1000万円であり,平均的な慰謝料額を大幅に上回っていること,その要求方法も原告の身体及び名誉への害悪を告知するものであることからすれば,被告による権利行使は,およそ権利の範囲内にはなく,その方法も社会通念上一般に認容すべきものと認められる程度を越えていると言わざるを得ず,正当行為とはいえず,違法性は阻却されない。

(損害について)

 被告による本件不法行為の結果,原告は,身体的にも社会的にも危害を加えられるのではないかと畏怖し,合計200万円を交付しており,その恐喝の態様をみても,一部の発言については,原告を乗せた車を蛇行運転させた状況下において「俺はお前なんかいなくなればいいんだと思っているんだ。」などと怒鳴りつけるような感じで脅したというものであって,原告が受けた恐怖感は大きかったとうかがわれること,被告は,刑事事件において,一貫して犯行を否認し,謝罪の態度を示していなかったほか,刑事事件において有罪判決が確定しているにもかかわらず,本件訴訟においても本件不法行為の存在を否認し,謝罪の態度を示していないことが認められる。他方で,原告は被告の妻と肉体関係を持ち,不貞行為を重ねていたのであり,原告にも落ち度があったことは明らかである。

 そのほか本件に顕れた一切の事情を考慮すれば,原告の精神苦痛による非財産的損害を金銭に換算すると50万円を下らない。

(まとめ)

 不貞行為を請求するケースでは感情的になられている方が大半であり,それは仕方のないことではあります。しかしながら,感情的になり自分が法を犯してしまっては,結局のところ損するのは自分になります。脅すことをしないで会社などに不倫の内容をばらしてしまった場合でも,不法行為や名誉棄損などに該当する可能性が高いです。

ちなみに,Bは恐喝事件として刑事事件でも起訴され,懲役2年執行猶予4年の有罪判決を受けています。

不貞行為をされたのに,金銭的にも損をして,刑事事件では有罪判決を受けてしまっては踏んだり蹴ったりです。

不貞慰謝料の請求をご自身で対応しようと考えている方は,感情的を抑えて対応することを心掛けてください。

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