(当事者)
原告=男性
被告=原告の妻と不倫をしている疑いがあった男性
A =原告の妻であり,被告と不倫をしている疑いがあった。
(ポイント)
・前提
配偶者のある者が第三者と男女の関係になったとしても,その時点において実質的に婚姻関係が破綻していれば,不貞行為とはなりません。
・裁判所の判断の概要
裁判所は,別居してからおよそ2年経った頃には,被告とAが男女の関係にあった蓋然性が高いとしましたが,被告とAがその時点において男女の関係にあったか否かにかかわらず,既に原告とAの婚姻関係は実質的に破綻しているため,被告の原告に対する不法行為は構成しないと判断しました。
裁判所は,原告とAの婚姻関係が実質的に破綻したのは,Aが離婚調停の申立てをした時点(別居から17日後)であるとしました。
(事案の概要)
① Aは,友人の結婚披露宴に出席するといって早朝から出かけ,そのまま帰宅せず,原告に無断で外泊した
② Aは,その後,特に週末になるとでかける頻度が高くなった。
③ 原告とAは,南房総に旅行に行き,ミュージカルを観劇するなどしたが,一方で,Aは,同窓会に出席するといって出かけ,深夜に帰宅したが,ベッドで寝ている原告を遠ざけるなどした。また,Aは,原告がキスをしようとしたのに対し,これを拒絶し,原告とAは口論となった。
④ 原告,A及び長女は,原告の実家に泊まりに行く計画を立てていたが,Aはこれに同行するのを拒み,原告と長女のみが泊まりに行った。Aは,原告の実家を訪問し,原告の両親に対し,原告についての不満を伝えるなどした。
⑤ 原告は,Aに対し,離婚して片親となったら長女が可哀想だという趣旨の話をしたところ,Aは,原告に対し,結婚相談所に登録して,新たに結婚相手を探す意向である旨答えた。
⑥ Aは,同人の母とともに,原告の自宅からA及び長女の荷物を搬出した。
⑦ 原告とAは,話し合いの場を設け,原告は,Aに対し,離婚する意向がない旨伝えたが,Aは,これに応じることなく,そのまま原告の自宅に帰らなかった。
⑧ Aは,別居後の長女が通うべき幼稚園を確保し,ひとり親に対する行政の支援などを調査するなどして,別居の準備をし,長女を連れて原告の自宅を出て,Aの実家に行き,原告と別居した。
⑨ Aは,原告を相手方として,離婚を求めて夫婦関係調整調停を申し立てた。この調停において,Aは,原告との離婚を求めた一方で,原告がこれに応じなかったため,不成立で終了した。
⑪ 原告は,Aを相手方として,夫婦円満調停を求めて,夫婦関係調整調停及び長女についての面会交流調停の申立てをした。
⑫ Aは,前記ケの夫婦関係調整調停とともに,原告を相手方として,婚姻費用分担調停を申し立て,この調停において,分担額についての合意に至らず,原告に婚姻費用の分担を命ずる調停に代わる審判がされ,この審判が確定した。
⑬ Aは,居酒屋で働くようになり,そのころ,被告と知り合った。
⑭ 被告は,その頃から,Aの自宅に2週間に1回程度の頻度で宿泊するようになり
⑮ 原告は,A及び同人の母と話し合いの場を設け,そこで,Aと被告との関係を問いただす趣旨の質問をしたところ,Aは,婚姻関係が破綻した後の恋愛は自由である,被告は友人である,被告との関係は原告には無関係である等の返答をした。
⑯ 被告は,Aと長女とともに東京ディズニーランドに行き,泊りがけのキャンプに行くなどした。
・裁判所の判断の理由
① 原告とAは,別居して以降,現在に至るまで同居は回復されていない。この別居に先行して,Aは,転居先において長女が通うべき幼稚園を確保するなどしている事実から,この別居は,衝動的なものではなく,離婚を前提とする別居を継続するという確定的な意思決定によるものと認めることができる。
② 原告は,別居に至るまで,Aとの夫婦関係は円満であった旨主張し,同趣旨の供述をしているが,原告とAの間には,種々の葛藤が生じていたと認められ,別居は,このような夫婦間の葛藤の結果であるといえる。また,夫婦関係調整調停において,Aが原告との婚姻関係について,これを継続できない複数の理由を列挙していることからすれば,Aは別居時に至るまでに同様の不満を抱いていたとものと認めることができる。
③ Aは,別居後わずか17日後には原告との離婚を求めて夫婦関係調整調停の申立てをしていることからすれば,Aにおいて,この別居は離婚を前提とするものであったと認めることができる。
④ Aが申し立てた婚姻費用分担調停においても,原告とAは合意に至らず,結局,調停に代わる審判に至っており,両者の経済的側面での意見も対立していたといえる。
⑤ Aは,証人として出頭し,別居から現在まで,原告と一日でも早く離婚することを希望してきたが,原告がこれに応じないために実現していないとの証言をしているが,その証言の真摯性は,別居の経緯によって担保されているといえる。
⑥ 夫婦関係調整調停が不成立で終了した後,原告と長女の面会交流の実施を除けば,原 告とAの夫婦としての交流がされた事実は見当たらず,原告によって同居を回復するための有効な対処もされていないし,そもそもAの希望は原告との離婚であり,同居回復のための条件提示すらされていない。
⑦ 以上のとおり,本件に現れた事実経過からすれば,Aが離婚を求めて夫婦関係調整調停の申立てをした時点で,原告とAの婚姻関係は実質的に破綻していたと認めるのが相当である。
(弁護士からのアドバイス)
前提として,別居したらすぐに実質的に婚姻関係が破綻しているというわけではありません。別居しているという事実は,あくまで実質的に婚姻関係が破綻しているかどうかを判断するにあたっての重要な考慮要素の一つです。その他,離婚調停の申立てをしているかといった事実も実質的に婚姻関係が破綻しているかどうかを判断するにあたっての重要な考慮要素の一つになります。
今回の事案において,裁判所は,Aが離婚調停の申立てをした別居してからわずか17日の時点で婚姻関係は実質的に破綻していると判断しました。もっとも,別居してから半年から1年程度であれば婚姻関係は破綻しているとはいえないと判断する裁判例が多いように思います。実質的に婚姻関係が破綻しているかどうかの判断は,各事案によってケースバイケースです。
別居を開始し,相手方が離婚調停の申立てをした後に相手方の不倫が発覚したとしても,不倫相手に対する慰謝料請求を簡単に諦めることはありません。 実質的に婚姻関係が破綻しているか否かは個別具体的な判断になるので,不倫相手から慰謝料請求を取れるかどうかについては,不倫慰謝料請求に関する知識が豊富な弁護士に相談するようにしましょう。
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