別居前に夫の退職金を引き出したら違法?
退職金は「共有財産」――裁判所の結論はこうなる
別居や離婚の局面で揉めやすいのが「退職金」。
結論から言えば、婚姻中の就労に対応して形成された退職金は原則として夫婦の共有財産です。
したがって、今回のように妻が退職金を引き出したとしても、それだけで直ちに違法とはいえません。
事案のポイント(要約)
- 夫の口座に入金された退職金1,500万円を妻が引き出し、自分名義口座へ移した。
- その資金で娘の結婚費用や自家用車購入等に充当。
- 夫は「勝手に持ち出したのは違法だ」と主張して返還請求。
- 裁判所:退職金は婚姻共同生活の成果=共有財産。よって違法性は否定(少なくとも一律には違法といえない)。
なぜ「違法ではない」のか
- 退職金は、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた生活収入の延長にあるもの。
- 形式が夫名義でも、実質は夫婦の共有と評価される。
- よって「他人の財物を横取りした」構図ではなく、共有持分の移動にすぎない。
もし退職金を特有財産(夫だけの固有財産)と捉えるなら、無断引出しは不法行為・横領的評価に傾きます。
しかし本件の射程では共有とみるのが原則で、違法方向には進みにくい——ここが重要です。
それでも争点になり得る“線引き”
違法とはいえなくても、使い方次第で後から清算(財産分与・持ち戻し)の対象になり得ます。
違法になりにくい(清算でも妥当とされやすい)使途
- 家計・生活費、学費、医療費、婚姻費用の補填
- 別居に伴う最低限の生活再建費用(賃料・敷金等)
揉めやすい(持ち戻し・評価減の対象になりうる)使途
- 高額な浪費・嗜好品・過度な贈与
- 一方配偶者を困らせる目的の隠匿・散財
- 財産分与を潜脱する趣旨が色濃い資金移動
つまり「違法(不法行為)で一発アウト」ではなく、分与段階での調整が中心になる、というイメージです。
実務の着地点
- 退職金は共有前提→「無断引出し=直ちに違法」にはならない。
- ただし、どれだけ・何に使ったかで、後の財産分与で持ち戻し・按分調整が入りうる。
- 返還請求で争うより、分与手続での公正な精算へ舵を切るのが現実的。
まとめ
- 退職金は婚姻中の就労対価として原則共有財産。
- 妻が引き出しても直ちに違法とはいえない(特有財産と評価する場面では違法方向)。
- 争点は違法性よりも、分与での使途・額の調整に移る。
