不倫を防止するための接触禁止条項に違反したら違約金100万円の同意は有効か!?(平成30年12月12日判決東京地方裁判所)

不倫事例解説

川西能勢法律事務所HP

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(登場人物)

原告=女性

被告=原告の夫と不倫をした女性

A=原告の夫であり,被告とは不倫の関係

(事案の概要)

1 原告は,タイ王国籍の男性であるAと婚姻し,同人との間に,長女,長男をもうけたが,その後,原告とAは,平成27年7月3日に離婚した。

2 被告とAは,同じ職場で働くようになったことから知り合い,男女交際する関係となった。

3 また,被告とAの交際関係は,原告の知るところとなり,原告に交際関係が発覚したことは,Aを通じて被告にも伝えられた。

4 被告は,原告の求めに応じ,平成26年6月28日,原告に宛てて誓約書を作成した。誓約書 では,①今後いかなる理由があるとしても原告の夫であるAとの電子メール,電話,ショートメッセージサービス,ソーシャルネットワーキングサービス,面会等の一切の関係を絶つことを誓約する旨,②これに反する行為をした場合には,妻である原告から即座に違約金として100万円を請求されても異存はなく,その場合,被告にどのような事情があったとしても速やかに上記金員を一括で原告に支払うことを誓約する旨等が記載されている。

5 その後,原告がAに対して被告との不貞関係を問いただしたことを契機として,夫婦げんかとなり,Aが原告に暴力を振るって原告は下肢に内出血の傷害を負い,原告の通報により警察官が臨場し,Aは,「これからは暴力をしません。」などとする上申書を作成した。その後Aは一時実家に戻ったが,同日の後程なくAは原告と子らがいる自宅に戻り,少なくとも平成27年5月頃まで子らを交えて原告と家族関係を維持していた。

6 その後,被告とAは,面会して性的な接触を含む接触をし,また,スキー場への日帰り旅行をし,さらに二人でホテルに同宿してテーマパークで遊興するなどした。

(誓約条項に違反した点について)

1 ポイント 

 被告は,本件合意における被告とAの接触の禁止対象が広範に過ぎるため無効であると主張しました。一般論としては,禁止の対象が広範囲に及んだ場合や違約金の額があまりに高額である場合には,合意が無効あるいは一部無効と判断されることがあります。

 本件において,原告と被告の合意が無効あるいは一部無効になるか否かが争点となります。裁判所は以下のとおり判断しました。

2 裁判所の判断

 仮に一般論として,配偶者と不貞相手との接触を禁じ,当該接触禁止約束に違反した場合に極めて高額な違約金を定めるなどする合意が,公序良俗違反等により無効になるという理論があり得たとしても,その全部が無効になると解するのは相当ではなく,さらに,本件においては,仮に上記のような一部無効の理論を採ったとしても,本件合意が原告の夫であるAとその不貞相手である被告との関係を絶つことを目的として原告と被告との間で合意されたものであることに照らせば,本件合意のうち,少なくとも,実際に面会して性的な接触を含む接触をしたり,日帰りかつ二人きりではないとはいえ連れだって旅行に出かけたり,あるいは二人でホテルに同宿してテーマパークで遊興する(しかも,いずれについても,当該接触がやむを得ないということのできるような事情は微塵もない。)という接触を禁じ,その接触禁止約束に違反した場合に違約金として100万円を支払う旨の部分が公序良俗に反するなどとして無効にならないことは明らかである。

 被告とAは,①実際に面会して性的な接触を含む接触をし,②スキー場への日帰り旅行をし,③二人でホテルに同宿してテーマパークで遊興したのであって,これらが本件合意において禁止された被告とAとの接触に該当することは明らかであるから,被告は,原告に対し,本件合意に基づき,違約金として100万円を支払う義務を負う。

 接触禁止の目的や金額は相当であるため,被告の合意は無効という主張は認められませんでした。

(慰謝料の金額について)

 慰謝料の金額について,裁判所は以下のとおり,50万円とするのが相当であると判断しました。

①原告とAの婚姻期間は,被告とAの不貞関係が開始した時点では約1年2か月,離婚するまででも3年弱に留まること,②しかし,その間に長女及び長男が出生し,原告とAは子らを含めて相応の家族関係を形成していたこと,③被告とAの不貞行為が存続した期間も一定(婚姻期間との対比で考えれば相当)程度存すること,④被告において原告に対し真摯に謝罪するなどしてその慰謝に努める様子はなく,かえって,被告申出証人のAとともに不合理な弁解をするなど,原告の心情を逆撫でするような対応に終始していること,⑤被告が本件合意においてAとの関係を絶つ旨を誓約したにもかかわらず不貞関係を継続したこと,⑥他方で,本件合意に基づき違約金として100万円の支払義務を負っていること,⑦原告とAの間にはAの原告に対する暴力という問題が存在しており,これも婚姻関係を悪化させた一因であると考えざるを得ないこと,その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,慰謝料額は50万円とするのが相当である。

 慰謝料の金額50万円ですが,相場からすると低額です。上記の裁判所が示した理由からするとそこまで低額になるケースではないように思います。違約金としての100万円と慰謝料を合計すると150万円となり,不貞慰謝料としては相場の金額になります。違約金としての100万円も考慮の上,全体の支払い額が妥当な金額となるように帳尻を合わせたように思います。

 誓約書を書かせて違約金の支払いが受けられる場合でも,必ずしも慰謝料と合わせて高額な金銭が得られるというわけではないようです。

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