既に不倫相手から250万円もの慰謝料を受け取っていても,さらに夫にも慰謝料を請求できるのか!?(令和2年5月27日判決東京地方裁判所)

不倫事例解説

川西能勢法律事務所HP

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(当事者)

原告=妻

被告=夫

A =不貞相手(女性)

(事案の概要)

1 原告と被告は,平成7年に婚姻し,平成8年に長女を,平成10年に長男を,平成14年に二女を,それぞれもうけた。被告は,平成14年に一人株主である会社で代表取締役の地位に就任した。原告も,同日,会社の取締役に就任し,以後,平成29年5月22日に開催された会社の臨時株主総会において,任期満了前に取締役を解任されるまで,会社で稼働していた(甲39,乙3)。

2 被告は,平成25年8月頃からAとの不貞行為に及び,同年12月21日に原告にAとの不貞行為が発覚した。その後,原告,被告及びAは,3人で協議し,その結果,被告とAが不貞関係を解消し,再度の連絡を取らないとの約束をした。そのため,原告は,被告との婚姻関係を継続することとした。

3 原告は,平成28年3月17日,被告が会社の在庫品をネットオークシヨンに出品し,その落札代金の入金先口座をA名義の預金口座としていたことを発見し,その後,被告とAが再度の不貞関係に及んでいることを確認した。
 その後も,被告は,Aとの間に頻回に外食を繰り返したほか,Aと車内でキスをし,また,被告の親戚に将来結婚をする相手として認めてもらうために山形県内を訪れた。さらに,被告は,Aとともに熊本県内を旅行し,その際,Aの母親も同行した。

4 被告は,遅くとも平成28年5月頃までにはマンシヨンの一室を賃借し,Aの意向を確認しつつ生活用品を買いそろえた。その後,Aは,頻回に同所を訪れるようになった

5 被告は,Aに対して「さっきのAスっごく綺麗だった」とのショートメールを送信し,Aから「今朝交わったから…」との返信を受け(甲29〔104頁〕),同月20日,Aに対して「寝顔がとっても綺麗で可愛く,横で寝てて幸せな気分になりました」とのショートメールを送信するなどのやり取りをした。

6 被告は,Aを同伴してゴルフ場に赴き,ゴルフをプレーしたが,その際,Aの名字を甲山と名乗らせた。

(裁判所の判断)

・不貞行為について

被告はAとは単なる友人関係にすぎないと主張していましたが,裁判所は不貞行為の存在については経緯から簡単に認定しました。

そして裁判所は,慰謝料の金額については以下のとおり判断しています。

被告は,平成25年12月にAとの不貞が原告に発覚したため,Aとの不貞関係を解消し,再度の連絡を取らないと約束をしたにもかかわらず,Aと再度の不貞行為に及び,マンションの一室を賃借して別居を強行し,Aを同伴して旅行するとともに,ゴルフ場においてAとの再婚を前提としたかのような振る舞いに及びつつ,Aとの不貞関係を継続したものであり,その結果,原告との婚姻関係を完全に破綻させたものである。加えて,被告がAとの不貞行為を再開した当時,原告と被告の婚姻期間が20年以上に及んでおり,その間に3人の子をもうけていることや,原告が被告との婚姻関係が悪化したことにより,原告が会社の実質一人株主である被告に取締役を解任されたことも併せ考慮すると,本件不法行為についての慰謝料としては,400万円が相当である

不貞行為の慰謝料の相場は100万円から300万円などといわれていますが,実際のところは,100万円から200万円になることが多いように思います。本事案では不貞の慰謝料としては高額な400万円となりました。婚姻期間が長く,お子さんが3人いること,不貞行為の態様が悪質であることなどが考慮されたものと思われます。

原告とAの別件訴訟では,Aが原告に解決金250万円を支払うことで和解が成立しています。不貞行為の慰謝料は,共同不法行為で不真正連帯債務であり,不貞行為をした2人の責任を合わせた金額となります。そのため,裁判所は,400万円からAが原告に既に支払っている250万円を控除した150万円につき,支払いを命じました。

先ほどお伝えしたとおり,不貞行為の慰謝料の金額は100万円から200万円になることが多いです。そのため,すでに不貞行為をした一方の相手方当事者が不貞行為の慰謝料として250万円を支払っていれば,もう一方の相手方当事者から慰謝料を獲得することは難しいことが多いです。ただ,慰謝料の金額は事案によってケースバイケースであり,本事案のように慰謝料の金額が高額にあることもあるので,相場にとらわれすぎるのもよくないかもしれませんね。

・暴行について

軽傷であったため金額は少額でしたが,裁判所は被告の暴行を不法行為と認めました。原告は被告からの暴行について,警察に相談した上で,医者にかかり診断書も作成しています。裁判所は,客観的な証拠がなければ暴行の事実を認定しないでしょうから,暴行など受けたときは本事案のように診断書を作成しておくことが大切ですね。

・暴言について

裁判所は,被告が原告に「ブス」と送信したことについて,遅くともその頃までには原告と被告の婚姻関係が破綻していたことに加え,原告が被告を罵るなど夫婦けんかのような内容を送信したものでもないにもかかわらず,被告が一方的に原告を侮辱する内容の返信をしたことも併せ考慮すると,社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが一見明白であるといえると判断しています。

(アクションについてのアドバイス)

・慰謝料について

 原告とAの間では,A原告に対して250万円を支払うことを内容とする和解が成立しています。不貞行為は共同不法行為となり不真正連帯債務であるので,原告と被告との関係においても,被告が原告に支払うべき慰謝料からAが原告に支払った250万円が控除されることになります。裁判で認められる不貞慰謝料の金額は100万円から200万円になることが多いです。そうすると,すでに原告はAから250万円を受け取っているため,被告に対して,相場からすると被告に対して慰謝料の支払いが認めらなくてもおかしくはありませんでした。けれども,裁判所は,被告から原告に対して慰謝料として400万円が相当であり,そこから250万円を控除した150万円について支払いを認めました。

 原告が相場を参考にして,被告に慰謝料の請求を求めなければ原告は被告から慰謝料の支払いを受けることができませんでした。相場はあくまで相場ですので,不貞相手から一定額の慰謝料を受け取っていたとしても,配偶者に対しては慰謝料の請求はするべきです。判決までいかなくとも離婚の交渉を有利に進めることができる材料にもなるでしょう。

 また,配偶者,相手方いずれにも慰謝料の請求をしたいと考えている方は,まずは配偶者ではなく相手方に対して慰謝料の支払いを受けてから,配偶者に請求する方が目的を達成できる場合が多いでしょう。

・暴行について

 暴行を理由に慰謝料を請求する場合においては,怪我をしてすぐに病院に行き診断書を作成してもらい,怪我の状態を写真に撮り,裁判になった場合に証拠として提出する準備をしておくことが大切です。

・暴言について

 夫婦喧嘩でお互い罵りあっている場合には,両者不法行為がなどは成立しない可能性が高いです。暴言を吐かれたとしても,言い返したりせず冷静に対応することで離婚の話し合いを有利に進めることができるかもしれませんね。話し合いでは感情的にならず,冷静に対応しましょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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