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インスタグラムではイラスト付きで事例を解説しています。

1 既婚者と性的関係を持った場合の責任
既婚者と知りつつ性的関係を持った場合には,既婚者の配偶者に対して不貞慰謝料の支払義務を負うことになります。
既婚者の男性から,妻との婚姻関係は破綻していると聞かされ,その言葉を過失なく信じたといえる場合には,不貞慰謝料の責任を負いません(詳しくはこちらの記事をご覧ください)。
それでは,このような場合に,既婚者の男性に対して慰謝料を請求することはできるのでしょうか。
2 貞操権の侵害を理由にする慰謝料請求
貞操権の侵害を理由にする慰謝料請求が可能なケースは二通りあります。一つは,交際相手から意図的,積極的に独身であると欺かれ,結婚を前提に交際をしていたケースです。もう一つは,既婚者であることは知っていたものの,交際相手から,妻との婚姻関係は実質的に破綻していて離婚をする予定であると欺かれていたケースです。
前者について詳しく知りたい方は,こちらをご覧ください。今回の記事では後者のケースについてご説明します。
3 どのような事情があれば慰謝料の請求は認められるのか?
男性からの妻と離婚するという言葉を信じて性的関係を持ったという場合であっても,必ず男性に対する慰謝料請求が認められるわけではありません。
このようなケースで,最高裁判所は,既婚者であると知りつつ性的関係を持った場合でも,性的関係を持った主な動機が,男性の詐言を信じたことが原因であり,女性側の動機の不法の程度に比べて男性側の不法の程度が著しく大きいと評価される場合には貞操権の侵害を理由とする慰謝料請求が認められるとの判断を示しています。
上記判例のように,現在の実務では,このようなケースで慰謝料が認めらえる場合をかなり限定的に解釈しています。
4 裁判例の紹介
上記最高裁判所のケース
最高裁判所は,女性がまだ19歳で,男性経験がなく,一方で男性は,女性が妊娠出産した後に女性と会うことを避けるようになり,完全に関係を断つに至ったというケースで,慰謝料60万円を認めています。
慰謝料20万円が認められたケース
男性が女性と,近々妻に離婚を申し入れることを前提としたやり取りをしたこと,一緒に旅行に行ったり,男性が女性の転居費用及び入学費用を援助し,女性のアパートに寝泊まりしていたケースにおいて,裁判所は,離婚をして自分と結婚してくれるものと女性が信じたことはやむを得ない面があるというべきであるとして慰謝料20万円を認めました。あくまで自分の意思で既婚者と知りつつ交際を継続していることなどから慰謝料は低額になったものと思われます。
5 最後に
既婚者の男性から妻との婚姻関係を破綻しており,離婚する予定であると言われ,性的関係を持った場合,慰謝料請求をすることができる可能性があります。実際に慰謝料の請求ができるかどうかはケースバイケースですので,正確な見通しを持つためには,貞操権の侵害についての知識,経験が豊富な弁護士に相談することをお勧めします。

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