別居してから1年経過しても婚姻関係は破綻しておらず不倫になる!?(令和元年5月15日判決 東京地方裁判所 平30(ワ)7657号)

不倫事例解説

川西能勢法律事務所HP

※インスタグラムでは事案の概要をイラストで紹介しています。

(登場人物)

原告(女性)とA(男性)が夫婦であり,被告が原告の夫と不倫をした女性。

(事案の概要)

1 結婚して2年後にAの浮気が発覚し,その件についてはAが原告に謝罪し,今後は浮気しないことを約束することにより収まりました。

2 その数年後に,Aは取引先銀行の従業員である被告と出会います。被告は,Aと原告とAの先輩の4人で温泉旅行に行き,また原告Aの自宅での忘年会に参加するなど,被告は原告も含めて交流がありました。原告とAは,別居するまでは,4泊5日の宮古島旅行に行ったほか,月に一度は温泉,週に一度は買い物に行く仲でした。

3 Aが自宅を出ることにより別居が始まりました。原告はAが自宅を出たことが原因で適応障害の診断を受けました。

4 Aが別居を開始してすぐに被告はAの自宅の近くに引越をしました。

5 Aは原告に対して離婚調停の申し立てをしましたが,調停は不成立となりました。

6 原告はAの浮気調査を探偵に依頼しました。調査の結果,Aと被告がAの自宅に泊まったことが判明し,Aと被告が不貞の関係にあることが明らかになりました。

7 Aと被告の不貞関係が明らかになった後に,原告はAに対して夫婦円満調停の申し立てをしましたが,調停は不成立となりました。

8 その後もAと被告の関係は継続しており,Aは原告に離婚の訴えを提起しました。

9 原告が被告に不倫慰謝料の支払いを請求したのが本事案であり,裁判所は被告に110万円(慰謝料100万円,弁護士費用10万円)の支払いを命じました。

(ポイント)

 原告は,別居する前からAと被告が不貞の関係にあったと主張しましたが,裁判所は,当該主張を認めず,Aと被告が不貞関係になったのは,別居から1年経過した時点であると判断しました(調査で発覚したもの)。

 別居してから1年経過した時点,すなわち不貞行為があった時点で,原告とAの婚姻関係が既に破綻していたのか否かが重要な争点になります。不貞行為の時点で婚姻関係が破綻していたということになれば,被告さんは不貞行為の責任を負いません。

(裁判所の判断)

1 別居時点で破綻していたか

 裁判所は,別居時点で婚姻関係が破綻していたか否かについて,以下のとおり,別居時点では婚姻関係は破綻していないと判断しました。

原告とAは,別居に至るまで,少なくとも表面上は平穏な生活を送っていたことが認められ,また,原告とAは,4泊5日で宮古島へ旅行に行くなど,同月まで月に1回は温泉に行き,年に1回は長い旅行に行き,また,週末には1週間分の食料品や日用雑貨の買い物に出かけており,別居直前にも買い物に行っていたことが認められるのであって,他に原告とAとの婚姻関係が別居時に破綻していたことを示す事情も認められないから,原告と男との婚姻関係が別居時に破綻していたと認めることはできない。

別居したらすぐに婚姻関係破綻というわけではありません。別居はあくまで婚姻関係破綻を判断するにあたっての重要な考慮要素の一つにすぎないのです。

2 不貞行為の時点で婚姻関係が破綻していたか

 裁判所は,不貞行為の時点で婚姻関係が破綻していたか否かについて,以下のとおり,不貞行為の時点で婚姻関係は破綻していないと判断しました。

 被告とAが男女関係になったことが認められるが,別居から同月まで1年程度の期間しか経過しておらず,その間に原告とAとの婚姻関係が破綻したことをうかがわせる特段の事情も認められないから,被告とAが男女関係になった時点において,原告とAとの婚姻関係が破綻していたとまで認めることはできない。

 1年間の別居期間をどう解釈するかですが,本事案では1年間の別居期間では婚姻関係が破綻していたと認めるには短かったようです。どの程度の別居期間で婚姻関係が破綻していると認定されるかはケースバイケースです。事案によっては,別居期間が1年未満であっても婚姻関係が破綻していると認定されるケースもあるでしょう。

3 損害額について

裁判所は,不貞慰謝料の損害額について,以下のとおり,100万円と判断しました。

 原告とAとの婚姻関係が別居まで17年に及んでいること,被告とAの不貞行為が一因となって原告とAとの婚姻関係が破綻したと認められること,他方において,被告とAが男女関係になったと認められる時期は,既に原告とAが別居し,別居期間も1年程度経過した後のことであり,その時点では原告とAとの関係が相当程度悪化していたと解されること,被告とAが男女関係を継続していることを過大に評価することはできないこと,その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると,原告の精神的苦痛に対する慰謝料は100万円と認めるのが相当である。

 別居期間1年では婚姻関係が破綻しているとは認定されなかったものの,その点が考慮され,慰謝料の金額は低めとなりました。

(対応についてのアドバイス)

 婚姻関係が破綻した後に配偶者以外の人と肉体関係を持ったとしても不貞行為ではありませんが別居したらすぐに婚姻関係が破綻となるわけではありません。

 この点を誤解している人が多く,別居したから配偶者以外の人と肉体関係を持ってもいいと思っている方が多い印象を受けます。逆に言えば,同居中に不倫を疑いつつもなかなか証拠が取れない状況で別居した場合,別居後であれば相手方も油断しているため,証拠を取れるチャンスが増えるかもしれません。ただ,どの程度の別居期間で婚姻関係が破綻と認定されるかはケースバイケースですので,不貞慰謝料の請求を検討されているなら,自分から離婚の申し出をする,相手を非難中傷するなど,婚姻関係が破綻していると捉えられるような行為は控えましょう。別居後においても,相手方と少しでも交流をしておけば,婚姻関係は破綻していないという方向に評価されるでしょう。

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